遊戯は窓を明けて自分の部屋から窓の外を眺めていた。
 「はぁ〜・・・」
 息を吐き出すと白い吐息へと変わっていった。
 よほど外気が低いのだろう。
 開け放ったままの窓を見ると、それを裏付けんばかりに室内の窓ガラスが曇っていた。
 何気なく頭上を見ると、重たげな色の雲が漂っている。
 「・・うわぁ・・・・黒いよ・・・・・」
 この町を覆うどんよりと黒い雲は、きっと雪雲だ。
 もう三月も終わりになると言うのに、この寒さは一体なんなのだろう。
 「・・あっ・・・なんか凄い!」
 遊戯はそっと窓の桟に手をかけて少し身を乗り出し、何かを見つけた。
 「もう、降ってるんだ!」
 童実野町の山間部から、ゆっくりとこちらに向かいながら降り出して来たのだった。
 それは遠くの方から白いカーテンが引かれるような様だった。
 はじめて目の当たりにする自然現象。
 それは新鮮な感動だった。
 「凄いよ!!!コレ、見せてあげなきゃ!!!」
 ふと、胸のパズルを確認するかのように・・・・。
 「ねぇねぇ!!」
 手を、パズルに伸ばすが・・・。
 (・・・・ぁ・・・)
 そこには馴れた感触はもう何処にも無かった。






 「・・・・・そ・・っ・か・・・・・。」






 もう、いないんだ・・・。








 そう、もういない・・・・。






 彼と繋がれていた絆は、一方的に切られてしまった・・・。
 彼に・・・。
 いや、ファラオとしての、彼の『運命』によって・・・・。
 どうして自分達は、こんな哀しい思いをしなくてはならなかったのだろう・・・。
 それが必然的な運命だったとしても、だ・・・。
 あの時は、その現実を分かりたくなくて。
 またきっと彼は帰ってくるのだと、そう信じていた・・・。
 五ヶ月立った今でも、彼はまだ帰ってこない・・・。


 ・・・分かりたくなかった。
 帰って来ないと言う事の『意味』を。
 それが、何を指すものなのかを・・・。


 「君が帰ってくるまで・・・」
 涙が知らずに溢れ出す。
 「僕の所へ帰ってくるまで、我慢してたのに・・・・」
 (泣くの、我慢してたのに・・・。)
 ・・・・いまさら、なんでないてるんだろう・・・。
 あのとき、どうしても涙を見せたくなくって・・・。
 でも・・・。
 今は涙を堪えられなくて・・・。
 眼前が涙で溢れる。
 町が白くなってゆく・・・。
 この町の中に、君はいない・・・・。









 「・・・君は、何処にいるの・・・・?」









 白い雪は、町を覆い隠してしまう・・・。












 「僕は、ココに、いるのに・・・・。」












 寂しい声は、誰にも届かない。











 ただ、白い雪だけが空を舞っていた。
 降り止む事の無い、白い雪だけが・・・・。










2004.3/28.17:00.pm
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003,春の雪